今回のユーザーを訪ねては、JR新大阪駅から車で10分の距離にある（株）若林精機工業です。取材には若林繁正社長、中森勇志工場長、漆原洋介係長に対応頂きました。
　同社は昭和32年に若林社長の祖父である若林繁夫元社長が工具や材料などを扱う工具商として若林商店を創業しました。現在では医療機器の部材供給に特化した非鉄金属及び樹脂の精密加工のほか、プラスチックの精密射出成形を行っています。
　若林社長は平成2年に同社へ入社。20代は製造にうちこみ、30代からは営業を経験したのちに、平成24年に社長に
就任されました。

販売業から加工業への転換

創業時の若林商店は、高度経済成長期の最中で工具類の販売のほか、部品製造の依頼も受けていました。同社は当時販売業であったため、製造は外部業者へ委託していました。しかし、委託して出来上がった部品は出来が悪く、不良品が続いてしまうという問題が発生。若林社長の父である若林茂会長は、先代の後を継ぐと同時に汎用旋盤を導入して、若林会長は自ら部品加工を始めました。昭和54年にはNC旋盤も導入し本格的に加工業を開始。社名も（有）若林精機工業へと変更して名実ともに販売業から加工業へと業種転換しました。
　同社は加工業への転換後、非鉄金属や樹脂部品の加工を中心に事業を行ってきましたが、時代は軽量化とコストダウンを求めることから射出成形による部品製造が増えてきました。時代の流れに合わせ、同社は平成4年に精密射出成形工場として神戸工場を開設。当時成長産業であった医療業界向けを中心に樹脂部品の射出成形を行っていきました。現在では、断熱と遮熱工事を施し環境負荷を軽減した大阪本社工場と神戸工場にて非鉄金属や樹脂の精密切削加工、樹脂の精密射出成形を行っています。

5軸制御立形マシニングセンタMAM72-3VSを設備

　同社は、平成16年10月に神戸工場拡張に伴う移転と同時にMAM72-3VSを設備しました。
「マシニングセンタを選定するにあたり、マツウラの機械は憧れのメーカーの1つです。高速回転が流行しだした頃に、マツウラのマシニングセンタは3万回転の高速回転で切削でき、アルミも削る抵抗が一気に減って豆腐を削るような抵抗感になるという性能を聞きました。それを聞いた私は魅力に感じ、商談を進めていましたがコスト等が合わず購入には至りませんでした。しかし、時代が進むにつれて高速回転のマシニングセンタが普及し、マツウラのマシニングセンタは業界でもさらに先を行く高速回転であること、自動化による高効率生産であることの2点がうまく合致している機械であったため購入を決断しました。設備した当時は、神戸工場の取得とともにMAM72-3VSを導入したため相当な出費であったことを考えると、購入を許可してくれたことに対して前社長に感謝をしています」と若林社長。
　MAM72-3VSで初めて加工を担当したのは中森工場長でした。
「担当を任された当初、私は5軸加工機を使うことが初めてであったため使いこなせるかどうか戸惑いがありました。しかし、営業マンをはじめ、マツウラからのサポートを受けることですぐに扱うことができたことを覚えています。MAM72-3VSを設備するまで当社は剛性の低い小型のマシニングセンタを使用してきましたが、MAM72-3VSでは加工が難しいワークを簡単に削れてしまうことや小さいワークでも精度よく削れたことから剛性の高さを実感しました」と中森工場長。同社はMAM72-3VS設備とともにGibbsCAMも導入しました。
「CAD、CAMはややこしいものだと思っていましたが、GibbsCAMはウインドウが整理されていて扱いやすいです。必要な画面や項目しか出ていないため、作業効率も良いです」と中森工場長。

5軸制御立形マシニングセンタMAM72-35Vを設備

　同社は令和3年3月にMAM72-35Vを設備しました。
「MAM72は試作品が早くできて、量産にも活用できるため、もう1台をいつか設備したいと考えていたものの、平成29年に本社工場を増築した際に空けていたマシニングセンタ1台分のスペースには他社製のマシニングセンタを設備しました。しかし、生産性向上や働き方改革への対応を新たに考える必要が生まれ、中森工場長とFA推進を担当する漆原係長に対応策を問いかけたところ、漆原係長がMAM72を導入すれば既存設備の4台分をこなせるはずです、と返答されました。漆原係長に背中を押されるようにMAM72-35Vを導入して現場を改革していこう、と設備を決めました」と若林社長。
「MAM72-35Vに期待することは、多品種・小ロット生産にかかっている時間を短縮することです。パレットチェンジャーが搭載されていて40個のバイスを搭載できるということは最大40種類同時に段取りできることにもなります。あるものを加工している間に別のものを同時に段取りできるということは非常に便利です。また、40パレットを活かした夜間生産や少人化にも期待しています」と漆原係長。

コンセプト：「ならどうする」を追求する

　「当社の理念としてできないからとすぐ断らず、なんとしてでもカタチにしようということがあります。できるように考えることが我々の課せられた使命です。このモノづくりの考え方が工場全体に浸透しており、できないことをできるようにする気持ちを持って社員1人1人が現場に接していることこそが当社の強みとなっています」と若林社長。

ビジョン：メイド・イン・ジャパンに貢献していく

　「世界から日本製の製品っていいよね、と評価されていると思います。これは先人の人々が努力してきた結果に対する評価です。現在は我々がその評価を担っているなかで、GDPなど日本の評価が様々な面で下がりつつあります。私たちが絶対に守らないといけないことはお客様とともに高い品質をつくっていこうというスタイルです。将来どんなにＤＸや無人化が進んだとしても、品質のつくりこみは人しか介入できない仕事です。私たちはメイド・イン・ジャパンという先人の人々が築いたブランドや精神を今後も大事に研ぎ澄ましていきたいと考えています」と若林社長。

　商店からスタートし、お客様により良いモノを提供するために自ら製造業へ業種転換した同社。業種は変わってもお客様に良いものを、というフィロソフィーは脈々と受け継がれていました。インタビュー中にも合間に笑いを交えながらお話をされていた若林社長からもサービス精神があふれ出ていました。