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ユーザーを訪ねて
号のユーザーを訪ねて
No.113
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チタン材を世界初、眼鏡枠に採用しためがね枠のイノベーター
福井光器 株式会社 様
「軽い、強い、錆びない、溶けない、そして人にやさしい―そんな特徴をもつチタン材をめがね枠に使えないか」と考え、 試行錯誤の末に完成させたのが、今から25年あまり前の福井光器株式会社先代社長、木村賢治(故人、現社長の実父)氏でした。
当時、チタン材は航空宇宙用など極一部に使われているだけの特別な合金材料。
いま産業界では常識となっているチタン材は、航空宇宙産業は勿論、化学や自動車、発電、海洋開発のほか、 建築や医療、ゴルフクラブやめがね枠、各種アクセサリーなど、その特徴をいかされ用途が拡大してきました。
このように、鯖江の特産であるめがね枠を、飛躍的に急伸させた大きな原動力であることは、いうまでもありません。
この研究開発に社運を賭けたのが、今回、「ユーザーを訪ねて」で訪問の福井光器株式会社です。
創業から新しい技術開発に力を入れてきた同社は「めがね枠のイノベーター」として、 つねに技術開発の先端に立ち走ってきました。
世の中に無い物の値決めは、思い切った値段にしろ!
「大学の先生が理論的に無理というチタン材のめがね枠の応用を、兄弟会社2社(表面処理加工業の福信鍍金工業、 めがね用金属材料部品加工業の福光精密工業)と、共同で持てる技術開発力を駆使してやってきたことが、成功した大きな要因でしょう。
特に先代社長は、好奇心が旺盛でした。
それも理論や机上よりも、現場や現実を直視し自分で合点しないと、承知しない頑固一徹。
試行錯誤も延べ4年余り。
チタンの特徴を生かしためがね枠は、私共の福井光器で昭和56(1981)年に、めがね枠の市場で初めて発売しました」と話す木村修久社長は 「親父のすごさは、それからでした。新しく開発したチタン材の加工方法や処理方法を、全て業界へ開放したことでしょうね。 これが大きな鯖江の地場産業に活力を与え、またたく間にめがね枠はチタン材が主流になって、普及しました。 いまでは、めがね枠は、セルロイドやべっ甲、プラスチックなど特別なものを除き、殆どチタン材が使われるようになりました。 もし、チタン材の加工や処理方法をオープンにしていなかったら、これほど普及はしなかったでしょうし、 めがね枠業界も姿や形が変わっていたでしょう。 もっとも、めがね用のレンズが、軽いプラスチック製レンズになりましたので、チタン枠が加速度に普及したことは事実です。」
さらに、「世の中に無いモノを売り出すのに、原価計算をすることはない。 先代社長の父は、思い切った値段をつけろ、と言われたそうです。 社内で決めた価格が、市場で認められたんですね。 これも産地の大きな刺激になりました」と、先代社長の功績の大きさに、あらためて驚嘆し脱帽した―と、木村社長は述懐されます。
めがね枠のチタン材から、新しい素材ゴムメタルへの挑戦も、視野に入れて
同社は大正6(1917)年、自転車用部品のメッキ業を福井で創業。
当時メッキ業は珍しく、新しい電気式によるメッキ方法を導入しましたのが、創業者の木村菊次郎氏(故人)。
7年後の大正13(1924)年には、鯖江特産のめがね枠の創始者、増永伍作氏(故人、福井産地開祖の一人)から、 めがね枠の金めっきを依頼され、めがね枠に係わりました。
そして昭和10(1935)年、めがね枠の製造を手掛けるべく工場を新増設、昭和16(1941)年、 株式会社木村製作所として法人に組織変更し、めがね枠の生産を開始。
戦後間もない昭和21(1946)年には、株式会社木村製作所を福井光器株式会社へ社名変更、めがね枠に本格参入。
鯖江特産のめがねのリーダー企業として、今日に至っています。
そんな同社が、めがね枠で日本生産の90%以上を占める鯖江特産のリーダー企業として、 木村修久社長は「私は同質化でなく、異質化で競争しないと勝ち残れないと考えて、行動を起こしています。 私達が目ざすのは、福井での物作りが原点です。 そのためには企業内を活性化させ、新しい技術開発に取り組んでいます」と語ります。
その基本は、昨年新しく制定された「企業理念と行動指針」(別掲)に、わかりやすく表現されています。
これを具現化するために、勉強会を毎週一回開催し、物作りを中心とした問題点を、時を経ずして摘出し解決するほか、 木村社長を座長に5名の委員を中心に、具現化のための見直しをすすめています。
「企業理念や行動指針は、昨年新しく制定しましたが、これにこだわってはいません。 都合の悪いところ、今の会社や市場や時代に合っていなければ、どんどん変更していくと、勉強会や委員会の会合で話しています。 20年余り前に先代がやったチタン材のめがね枠が、今のめがね枠の基本になりました。 その先代の遺志を継ぎ私達は、チタン材に変わる新素材のトヨタ自動車中央研究所で開発された、 新素材ゴムメタルの応用を考え、すでに一昨年から研究し、一部商品化。 軽くて収縮度があり、弾性変形態が大きいことから、ゴムメタルと名づけられた新素材で、 自動車以外の業界にも応用できないかといわれたものです。 私達はさらに、めがね枠の素材の革新だけでなく、加工方法や処理方法などについても、 誰よりも何処よりも早く、最新技術が駆使できるように努力しています」と、木村社長。
6.5日の仕事が2.5日に短縮したLX-0型は、数字に出来ない多くの効果がありました!
「昨年秋、東京で開催されたIOFT、国内めがね展のブースで“こんな技術を使ってフレームを作っている”と発表して、大好評を得ました」と、 にこにこしながら1枚のシートを持って、話されたのが、生産部門の総括担当、木村幸四郎常務です。
そのシートには“福井光器はジカ彫り金型”というA4判のコピー(別掲)。
このコピーは、IOFTで同社ブースに張りつけたところ、会場にこられた顧客達だけでなく、 めがね枠メーカーや関係者から大きな反響が出たようです。
でもLX-0型が同社に設備され、1ヶ月経った頃から過去になかった大きな衝撃が、同社の生産現場を襲ったようです。
この「直彫くん」 「ZIKABORI」は、マツウラのLX-0型による、新しい加工方法によるものでした。
マツウラLX-0型との出会いについて、木村常務は次のように話します。
「2001年秋、名古屋の展示会でLX-1を見ました。刃物が持たないのでは、との第一印象でした。 でも加工の見直しによる、設備計画が検討中のとき、設備技術に関する審査は厳しく、やるからには結果を出さねばならないです」
展示会見学後、検証や検討を重ね「新しい方法でやるなら、マスター型をやめてプレス型への直彫り加工によって、 金型生産の流れを変えることを考えました。 マツウラさんといろいろ検討し、LX-1型に搭載の60,000回転の主軸モータを、LX-0型に搭載してくれることを条件にして、発注を考えました。 これによって例えば現状のやっているマスター型を、排除する新しい方法によれば、 6日かかっている仕事を4日に短縮できるという机上計算―。 そして数字に出来ない効果も大きいからと、役員会で設備投資の承認をとりマツウラさんに発注したんです。 もっとも、マツウラさんは車で1時間足らずの距離にあり、情報交換やメンテナンス面でも大きな魅力でした―」と木村常務。
化け物みたいな機械だな!LX-0型を高評価―
設備据付して約1ヶ月程で、立ち上ったLX-0型の60,000回転主軸モータ搭載の新設備は、 木村常務の期待以上の活躍ぶりのようでした。
「数字に出てこないプラス効果は、いうまでもなく沢山ありました。 数字上では計画の段階で現行6日かっかたものが、4日で出来るものでした。 しかし実際には従来6.5日のものが、2.5日で加工仕上げ出来ました。 こんな状況を見ていた生産部門の担当者の驚きは、大変でした。 焼き入れ鋼が、こんなにバンバン加工できるのを、見たことがなかったんでしょうね。 すぐLX-0型にZIKABORI-KUNとニックネームがつけられまして、これはどうだ、あれもやれると毎日、 LX-0型での加工へのトライが続き、今では順番待ちです。 加工時間が従来比1/3以下に短縮したのは勿論ですが、生産現場の新しい技術への取り組みが、 目に見えて積極的に増えてきました。 今までヤスリ職人だったのが、今ではプログラムの職人になっているのも、その例です。」
そして、LX-0型の加工現場を見た50才代の社員の一人は「化け物みたいな機械だな、直彫り君は。 非常に機械が進歩し、変化に追いつくのに大変な時代がきた。」といって、笑いながら俺の時代は終わったと話していました。
俺達の時代は終わった、という50才代の言葉は、印象深く意義ある言葉でした―と静かに話す、 木村常務の言葉には、「技術革新の風をいつも傍らに…」と行動されてきた新設備の新しく革新的な技術による加工方法の満足感と達成感、 そして、さらなる新しいものへの取り組みが、秘められているようでした。
めがね枠に、新しいチタン材を導入して鯖江のめがね産地に新風を巻き起こしたリーダー企業の福井光器株式会社。
同社のこれからの一挙手一投足が、さらに業界の活力を倍加させることでしょう。
同社の真っ向勝負で元気な前進が、また鯖江めがね枠業界に大きな期待がもたらされるのも、遠い将来ではなさそうです。
会社情報
- 会社名
- 福井光器 株式会社 様
- 本社
- 福井県鯖江市三六町一丁目1-40
- 工場
- 同上
- 代表者
- 代表取締役社長 木村 修久氏
- 資本金
- 4,800万円
- 売上高
- 18億円
- 従業員数
- 86名
- 主要製品
- めがね枠製造および企画販売